空へ
PS.
……空。
君はもう、目覚めた頃だろうか。
僕は今、とてもきれいな青空の真ん中にいる。
上も下も右も左も、見渡す限り青が続いていて、雲一つ見えない。
この青い世界は全ての魂の通り道だ。
聖ニコラウスも、クリスマス前にはここを通って地上に降りているんだ。
僕はこれから上へ昇り天国で少し休むけど、
次に生まれるその時まで、風や太陽の光になって、君と一緒にいる。
だから、空。
君はもう空を眺めて過ごさなくていい。
君はただ、君だけの未来を見つめて生きなさい。
たくさん笑って、たくさん泣いて、たくさん友達を作って、たくさん恋をして。
愛しい奥さんをもらって、可愛い子供をもうけて、幸せに生きていってほしい。
テレビを見てはいけませんとか、
学校の先生の言うことを聞きなさいとか、
高くて遠い目標を持ちなさいとか……。
パパが言った、それら全部のお説教も忘れてください。
パパが本当に伝えたかったのは、たった一言だけなんだ。
君を、本当に愛しています。
*****
息子に言いそびれてしまったことを、僕は今ようやく手紙に綴っている。
この手紙は確実に息子へ届くはずだ。何しろ、世界中で最も信頼出来るメッセンジャーに頼むつもりだから。
「では、お願いします」
手紙を受け取った老人は柔らかい白のローブ(長衣)をまとっていた。彼はうなずいて微笑みをくれる。
「任せておきなさい。あなたの手紙は確実に届ける」
けれど僕は少し心配になって老人を引き止めた。
「手紙の言葉は、地上で使っていた時の言葉と違います。彼が手紙を受け取ったとしても、意味を理解できるでしょうか?」
「大丈夫だとも」
老人は長い顎ひげを揺らして笑った。
「夢見る子供たちは、愛を感じる力を持っている。彼らは心で直接、天国からの愛を受け取ることが出来るのだよ」
言い終えて老人――かつて地上でニコラと呼ばれた聖なる魂は、たくさんの天国からの手紙を携えて舞い降りて行った。
ニコラはもう千年以上も前から天国に留まって、愛のメッセージを子供たちに送り続けているという。メッセージを受け取った子供たちは必ず愛されていることを感じながら生きるそうだ。
僕の手紙は、なんとか今年のクリスマスの最終便に間に合った。
ニコラウスに託した愛を息子は受け取ってくれるだろうか?
彼を包んで、ほんの少しでも、孤独の寒さから守ることが出来るだろうか……?
彼が父親のことを忘れてしまったとしてもいい。ただこの愛さえ君を包んで行くなら。
僕もそろそろ旅立とうと思っている。
愛する人たちと新しく会えるはずの、未来の世界へ。
END
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